トップコミットメント
「生活文化創造企業」を基軸に、
未来を担う子どもたちの期待に適う
企業グループへの変革を進めます。

「生活文化創造企業を目指す」ことが当社の存在意義
新型コロナウイルス感染症への対応が2年を越え、また今年2月のロシアによるウクライナ侵攻の影響で、エネルギーや原材料価格の大幅な高騰ほか、世界のさまざまなサプライチェーンに大きな変動が起きています。その間、私たち東洋インキグループはニューノーマルはじめさまざまな環境変化への適応を続けてきましたが、このような変化の激しい、そして、先行き不透明な今だからこそ企業としての責任を果たすべく何を「拠り所」として行動していくべきかを明確にしました。中期経営計画「SIC-Ⅱ」で掲げた「新たな時代に貢献する生活文化創造企業を目指す」はグループの経営理念ともつながっており、基軸となるものと考えています。
「生活文化創造企業」とは何か。世界では、さまざまな人びとが多様な価値観を持ち、地域や世代、社会環境による課題や問題に直面しつつ、日々生活を営んでいます。そのような人びとの生活のために、単なる経済的な豊かさだけではない、文化的・精神的な豊かさに資する製品・サービスを提供していくことが、私の考える生活文化創造です。そしてそれはビジネスにおける収益の確保とは相反しないと考えています。渋沢栄一の『論語と算盤』に「義利合一」という概念、社会への貢献と営利の追求は両立するという考え方があります。当社グループの強みである技術力やグローバルネットワークを最大限活かし、社会に貢献し、同時に利益を上げていく。それが生活文化創造企業を目指すということです。
生活文化創造企業を目指すには、もう一つ大切なポイントがあります。当社グループは、お客様・社員・社会・株主の4つの満足度を重視していますが、私は「未来を担う子どもたちを幸せにすること」と言い換えることができると考えています。現在の当社グループを取り巻くステークホルダーの要望に応えていくことに加え、未来を担う子どもたち、将来世代の人びとのために私たちが取り組むべきは、SDGs達成やESG経営といった事柄にもつながっていきます。未来に向けて事業に取り組み、雇用を創出し、収益を得て納税し、さらに未来を見据えた新しい事業に再投資していく。この当たり前のことを日々意識して企業経営に取り組んでいくことで、未来を担う子どもたちの期待に応えられる東洋インキグループを実現できると確信しています。
成長する社員と組織の双方向エンゲージメント
少し前から、企業と社員の関係性は大きく変化してきていると考えます。かつての社員のロイヤリティに支えられて企業が成長できた時代は終焉し、今や、多様な価値観を持つ社員と企業との双方向の力によって個人と企業が共に成長する時代に突入しています。これからのエンゲージメントの本質はそこにあると考えています。
当社グループには、「6年目ローテーション」という人事制度があります。新卒入社して6年目の社員が異なる職域の部署に異動するシステムですが、現場からは『5年掛けて育てて、ようやく戦力として活躍してほしいタイミングで異動というのは、会社にとって本当にベストな仕組みなのか』という意見は少なくありません。育てた側の心情は理解できますが、本人の長い人生の中での成長を考えると、環境を変えることは社員と会社、両者にとってプラスに働きます。慣れた業務環境は社員の安心感や部分的な組織力の確保をもたらす一方、気付かないうちに個人の潜在能力の開発や、組織全体としての成長を妨げる要因となります。
私自身、今の私の礎となった経験は、30代での米国駐在でした。世の中のあらゆる物品の色のもとは顔料にあると知り、そこに惹かれて入社した私でしたが、入社後しばらくして当時の社長が「国際化元年」を打ち出したことで、私の中の海外赴任への想いがますます強くなりました。何年かの後、想いが叶って実現した米国駐在の数年間は、異文化の中で明確に意思表示するなどのスタイルを学びつつ、どのような環境でもチャレンジするマインドや、困難に立ち向かうことの面白さを学べた、とても実りのある時期だったことを覚えています。
会社や事業の成長は社員の成長によって達せられる、すなわち、個があって全体があるというのが基本です。社員と組織の適切なエンゲージメントが形成され、社員が自身の成長を実感できる組織であり続けられるよう、会社は常に改革的であろうと思います。
既に、事業の現場において社員の成長が結実している様子を目にします。当社グループでは、日々さまざまな部門で新製品や新技術が誕生しているのですが、その着想や提案が、グローバル視点での外部環境の変化を捉えたうえで現場レベルから発生してくる、という内発的な点を非常に頼もしく感じています。このようなボトムアップスタイルが次々と実践されている風土が、当社グループの特長として、組織の成長への強力なエンジンになっていると確信しています。
コロナ禍だからこそ企業基盤強化のとき
2021年度からスタートした中期経営計画「SIC-Ⅱ」が2年目に入りました。これを策定している最中、社内で『新中期経営計画をこのタイミングでスタートさせるべきか否か』という議論がありました。当時はまさにコロナ禍の拡大期であり、他社においても非常事態として中期経営計画のリリースを先延ばしにする例が複数ありました。一企業の業績どころか社会の動向自体が完全に不透明であり、計画発表の延期も止むなしといった判断もあったと思われます。
私は、経営企画を担当する役員や社員たちと議論を重ねましたが、やはり予定通りに策定し開示しようと判断しました。それは、このコロナ禍だからこそ、当社グループのファンダメンタルズを再構築すべきタイミングではないかと考えたからです。苦境にあるからこそ、当社グループの基盤に関わる重要な課題が顕在化するのであり、それをターゲティングして解決するチャンスであるとの考えを強く持ちました。
ファンダメンタルズとは、目に見える製造資本やテクノロジープラットフォームなどの知的資本に限りません。社員の考え方や向かうべき方向性、何を拠り所として仕事をするのかなど、不可視なものも含めて検討し、中期経営計画を練り上げました。その目指す姿として「生活文化創造企業」をキーワードとし、先行き不透明な時期だからこそニューノーマルに適応できる、新たな時代に貢献できる生活文化創造企業であり続けようという意思を根幹に込めたのです。
取り組むべき短期的課題と中長期的な戦略
2021年度を振り返ると、売上高についてはSIC-Ⅱの年度目標に届く水準に達したものの、営業利益については年度目標とした145億円に対して130億円と大きく出遅れてしまいました。これは、単純に原材料価格の高騰が減益の要因となったと考察すべきではなく、原材料価格の高騰という環境変化に対して、その対応を十分にできなかったことが経営としての反省点です。
このことから、当社グループが取り組むべき短期的課題は明確です。原材料価格の高騰は今後も続くことが想定されますし、ステークホルダーの皆様の関心事でもあります。既に多方面で価格改定にご理解いただいていることについては大変感謝しておりますものの、メーカーとしてコストダウン施策を尽くしたうえで、お客様とも粘り強く対話を重ねていきたいと考えております。加えて中長期的には、いかなる環境変化にも左右され難い事業の収益力強化が不可欠です。2021年度はフィリピンおよびフランスの生産拠点閉鎖や売却、そしてミャンマーの事業一時停止に加え、国内でも製造拠点および研究開発拠点の再編や集約を敢行しました。今年度も低収益事業の見直しや場合によっては撤退など、また、製品や事業ポートフォリオのドラスティックな転換といった、事業の収益力強化に向けた取り組みを深めていきます。
一方、重点開発領域の創出と拡大においては、成長エンジンとなる新事業の筆頭にリチウムイオン電池(LiB)用材料事業を挙げます。CNT(カーボンナノチューブ)を安定分散できる当社の技術力と、需要地域と重なる世界4地域のグローバル供給ネットワークが当社の強みです。非常に需要が大きい市場分野であり、各地域で生産拠点の増強を図っています。お客様である海外大手電池メーカーによる投資の大胆さやスピードには学ぶ点が多く、動向を見極めつつ当社グループの持続的成長の核にしていきたいと考えています。
経営基盤としての技術力向上においては、グループ内の研究開発機能の再編に加え、社外との知的コラボレーションとして東京工業大学との連携を実現しました。そのうえで、全てのグループ研究開発部門が情報や進捗を共有することで、市場ニーズやコスト感覚から逸脱しない、スピーディかつダイナミックな研究開発体制を構築しています。
サステナブル社会の到来は大きなビジネスチャンス
地球規模の課題である気候変動問題に対しては、昨今多くの企業がTCFD提言に基づく自己分析や情報開示に積極的に取り組んでいます。気候変動への対応は当社にとっても重要課題の一つです。売上高の約50%が海外である当社グループでは、海外で排出している温室効果ガス(GHG)をいかに把握し削減するか、化石燃料に頼ったエネルギーミックスをいかに転換していくかなどの分析を進めています。一企業では難しい部分も、進出先の各国の政策や事情などを整理し対応を推進していきます。原材料調達から輸送、使用、廃棄にわたるサプライチェーンでのGHG排出、Scope3への対応も課題です。お客様やサプライヤー様と連携を図り、排出量の把握と対策を進めていきます。
さらに、GHGのみならず廃棄物やエネルギー消費などさまざまな環境負荷の低減と、社会に向けた製品・サービスを通じた価値提供に意欲的に取り組むべきとして、2050年に向けた長期目標となるサステナビリティビジョン「TSV2050/2030」を策定しました。これは、「持続可能な社会を実現させる製品・サービスの提供」「モノづくりでの環境負荷低減」「信頼される企業基盤の構築」を3本の“柱”としています。そこで掲げる「2050年における実質的なカーボンニュートラル達成」「サステナビリティ貢献製品売上高比率80%」などの具体的な数値目標は、当社グループから将来世代、未来を担う子どもたちに向けたコミットメントです。
サステナブル社会の到来は、当社グループにとって大きなビジネスチャンスですが、ひとたび取り組みを怠れば、事業機会を喪失し、ステークホルダーからの信頼を損なうことは疑いありません。そのことを十分肝に銘じつつ、能動的に取り組んでいこうと思います。
持続的成長に向けた基盤整備
企業の持続的成長を支えるガバナンスをメンテナンスしていくうえで、社外取締役の客観的な視点による意見、提言は不可欠です。高度な経営判断を要する場合はもちろん、日々の取締役会での闊達な議論において社外取締役の言葉が鍵となる局面は頻繁にあります。
社長就任後の初の取締役会で、ある社外取締役から『次世代経営者の育成を考えてほしい』との提言を受けました。現在私が主催している「次世代経営研修プログラム」は、その提言を受けて発足したものです。毎年8人程度のメンバーを選定し、次期長期経営計画の構想や、新たな企業ブランディングについて取り組むことで、未来の世界と東洋インキグループをコーディネートできる次世代の経営幹部候補者を育成しています。前例を継承しつつも前例を打破できる、自立した経営判断ができる次世代経営者を育成することは、私の重大な使命の一つです。
次世代経営者の育成と併せて、優れた人材を確保し活躍させることもまた、基盤整備のための重要な課題です。当社グループに在籍する数千名の社員たちは実に多様で、一人ひとりの能力もさまざまです。全員の能力が十分に発揮できるような仕事と人のマッチングは理想論かもしれませんが、これまで能力を活かせていなかった社員が、実はDX対応に傑出したスキルを有しているといったケースは十分想定できます。だからこそマネジメント層には、社員の特性や強みを時流に合わせて見抜く力が求められます。日本と海外とを問わず、優れた人材を確保し活躍させるには、当社グループの企業、職場としての魅力を高め、社員や求職者に向けたエンゲージメント力を高めていくことが大切だと考えます。
ダイバーシティ&インクルージョンの面では、あらゆる属性の社員が活躍する組織を目指しており、現在は女性・シニア・障がい者・外国籍社員などの活躍推進を施策として取り組んでいます。例えば、女性活躍推進では女性採用比率30%、女性管理職比率8%を目標に掲げています。しかし、単に採用・評価システムを改革するだけでは、本当の意味での女性活躍は実現できません。すべての社員が性別というフィルタを捨て、出産や育児が女性社員のキャリアを阻害しない、男性社員も積極的に育児に携わる、そして未来を担う子どもたちが健全な生活環境で育つことができる、そのような職場環境作りを実践していきます。
創業から120年超にわたり、私たち東洋インキグループは世界中の人びとの生活文化に貢献してきました。製品の販売先、材料の購入先、職場、投資先、そして社会の隣人として、東洋インキグループを選んでくださったすべてのステークホルダーの方々にとって、その選択は“ベストチョイス”だったと確信していただけるよう、創業の精神を継承しつつも、変革と挑戦を間断なく進めていきます。新たな時代に貢献する生活文化創造企業を目指す東洋インキグループの成長にご期待いただきたいと思います。
(東洋インキグループ 統合レポート2022より)