TCFD提言に基づく気候変動情報開示

東洋インキグループは、気候変動への対応は企業活動に大きな影響を及ぼしうる重要な経営課題と認識しています。2020年11月には、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明。現在、2050年度カーボンニュートラル達成に向けたCO2排出量削減に取り組むなど、気候変動対応活動を進めています。

TCFD/気候関連財務情報開示タスクフォース

※ TCFD:2015年に金融安定理事会(Financial Stability Board;FSB)により設立された気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on ClimaterelatedFinancial Disclosures)。気候変動が企業の財務に与える影響の分析を行い、対応に関する戦略などについての情報開示を推奨している。

ガバナンス・リスク管理

グループ全社のサステナビリティ活動を統括するサステナビリティ委員会は、サステナビリティ担当役員を委員長とし、代表取締役社長 グループCEOを通じて取締役会の監督下に置かれています。活動状況はグループ経営会議などを通じて経営層へ報告しています。下位組織であるESG推進部会は、サステナビリティビジョン「TSV2050/2030」に基づく全社サステナビリティ活動の推進、気候変動対応に関する実務・推進・情報開示をミッションとして、環境技術・モノづくり・企業基盤の3チームがグループ内各社・各部門と連携して活動しています。

また、リスクマネジメント部会と連携し、気候変動リスクを他のリスクと同様に抽出・評価・検討し、重要リスクを特定、対応しています。CO2排出状況については、生産・物流本部環境・SCM推進室が実績評価を行っています。

気候変動対応体制(2022年度)
図:取締役会/監督/報告・提案/代表取締役社長 グループCEO/グループ経営会議/監督/報告/サステナビリティ委員会/委員長:サステナビリティ担当役員/ESG推進部会/環境技術チーム/モノづくりチーム/企業基盤チーム/TCFDチーム/連携/リスクマネジメント部会/コンプライアンス部会/連携/HDコーポレート部門、国内外のグループ会社
各会議体の議題、開催状況など(2022年度)
会議体 議題、開催状況、報告状況など

サステナビリティ委員会

・サステナビリティ会議(全社会議)の開催(9月)

・経営層への報告:2回(気候変動関連情報開示の提案および結果報告)

ESG推進部会

・製品ポートフォリオの見直し

・原材料低炭素化の検討

・省エネルギー施策、再生可能エネルギー導入検討など

・気候変動情報開示の内容検討

・開催状況:定例会月1回+テーマごとに随時

戦略

基本方針、基本戦略

世界的な気候変動に対して各国や地域行政が講じる政策・施策は、市場環境や原材料調達、消費者の選好性を大きく左右し、事業の継続や業績に強い影響を及ぼしうると認識しています。こうしたリスクや機会を分析し、経営方針や事業計画に反映させて、対応活動に取り組んでいます。

気候変動対応活動に関する基本方針

東洋インキグループは、気候変動を重大な事業上のリスクの一つと認識し、グローバルな要請への対応を積極的に推進します。同時に、気候変動対応を含む全般的なサステナビリティ活動を通じて、社会の持続可能性向上への貢献に努めます。
1. あらゆる企業活動におけるGHG排出量の把握と削減
2. お客様や生活者の気候変動対応に貢献する製品・サービスの提供
3. 気候変動対応活動を積極的に推進できる企業基盤の構築
4. グループの気候変動対応活動に関する適切な情報開示

リスク/機会の特定プロセスと情報開示の流れ

TCFD提言に基づく情報開示を行うにあたり、グループ全社を巻き込み妥当性を確認しながら、リスク/機会の特定を進めました。今後も継続的に取り組みを推進・充実化するとともに、開示内容のさらなるブラッシュアップを図っていきます。

図:体制づくり/リスク/機会の特定/リスク/機会の洗い出し/ESG推進部会を中心としたプロジェクトチームで作業/約300のリスク/機会を洗い出し、ロングリストを作成/グループ全社を対象としたTCFD勉強会とワークショップの開催/意識醸成を目的とした勉強会の開催(2021年1月・参加425名)/各社部門長などを対象にワークショップを開催(2022年2月・参加34名)/ワークショップのアウトプットをロングリストにフィードバック/重要度の高いリスク/機会項目を特定し、財務影響を確認/洗い出したリスク/機会を整理し、41項目に集約/各項目の財務影響度×発現可能性で、重要度を評価/重要度の高い6項目を特定、影響の詳細を確認/特定したリスク/機会への対応策を検討/特定した6項目のリスク/機会について、対応状況を確認/中期経営計画SIC-ⅡやTSV2050/2030に沿って対応策やアクションを検討/取締役会への報告、議論(2022年5月・7月)/文書化と情報開示/取り組みと開示の推進・充実化
リスク/機会の特定プロセスで、整理・集約したリスク/機会項目(一部)

移行

・炭素税導入や排出権取引価格高騰によるコストの増大

・GHG排出などの環境規制の強化・変更とそれに対する生産設備への影響

技術

・脱炭素社会への移行に伴う既存技術の価値低下

・低排出製品への移行に伴う、省エネルギー設備への投資・人材育成・研究開発コストの増大

市場

・サーキュラーエコノミー・脱炭素への移行に伴うパッケージ・印刷関連などの需要の減少

・非化石由来・リサイクル原材料の使用や規制対応などによる原材料・エネルギー価格の上昇

評判

・お客様などからのGHG排出量削減要請に伴う選好性の低下

物理

急性

・気象災害によるサプライチェーン分断に伴う供給責任の不履行や事業機会の喪失

・気象災害に起因する設備・施設の損壊、インフラ停止に対する復旧コスト増大や事業機会の喪失

慢性

・洪水リスク・渇水リスク地域に所在する自社拠点の対策や移転コストの増大

機会

・お客様の省エネルギー・GHG排出量削減・資源循環につながる製品や低排出製品の需要拡大による売上増加

・気候関連の新規ビジネス(カーボンネガティブ材料や感染症対応製品)の市場拡大による事業機会の獲得

シナリオ分析

TCFD提言では、戦略の開示において、2℃以下シナリオを含む複数の気候関連シナリオで分析を実施することが推奨されています。東洋インキグループでは、平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑制するためにさまざまな施策が行われる世界を想定した1.5℃シナリオと、気候変動により物理的リスクの影響が高まる世界を想定した4℃シナリオを参照して、分析を行いました。

※ 1.5℃シナリオでは、IEA World Energy Outlook: Net Zero Emission by 2050 ScenarioおよびIPCC:SSP1-1.9を、4℃シナリオでは、IEA World Energy Outlook: Stated Policy ScenarioおよびIPCC:SSP5-8.5を参照しています。

財務影響度:3=財務的影響が数十億円以上に及ぶ  2=財務的影響が10億円程度  1=財務的影響が10億円を下回る
発現可能性:3=現時点で既に発現しているか、将来ほぼ確実に発現する  2=発現の可能性が比較的高い  1=発現の可能性が低い

リスク/機会 事象・要因 インパクト 対応策・アクション
1.5℃ 4℃

リスク

原材料コスト・エネルギー価格の上昇

・非化石由来・リサイクル原材料の需要増大

・GHG(温室効果ガス)排出規制の強化によるサプライヤーにおける対策費用の増加

・ナフサ生産量減少による原材料コスト増大

財務影響度3 財務影響度2

・処方の見直しや製品ラインナップ転換による高コスト原材料の削減

・サプライヤーとの契約見直しを通じた原材料の安定調達

・地産地消推進による輸送距離短縮を通じたエネルギー削減

発現可能性3 発現可能性3
パッケージ・印刷関連需要の減少

・市場のサーキュラーエコノミー志向の伸長

・脱炭素社会への移行進展

・包装業界における脱プラスチックの進展

財務影響度3 財務影響度2

・事業ポートフォリオの見直し

・製品の環境性能、低排出性の向上による優位性強化

・製品へのCFP表示による付加価値アピール

・低炭素包装材料に対応した製品展開

発現可能性3 発現可能性2
炭素価格のコストへの影響増大

・炭素税の導入

・化石由来電力への炭素税賦課、原材料に対する炭素税価格の上乗せ

・排出権取引市場の活発化、排出権クレジットの希少化

財務影響度3 財務影響度2

・炭素税による原材料価格上昇分の製品価格への転嫁推進

・製品処方改革による高炭素原材料の削減・排除

・再生可能エネルギー由来電力への積極的な転換

・直接排出の削減徹底による排出権購入の回避

発現可能性3 発現可能性3
気象災害の激甚化に伴う事業機会の喪失

・気象災害によるサプライチェーン分断(生産拠点の操業停止、原材料・製品の輸送障害)

・気象災害による農地への悪影響に伴う、バイオマス原材料の供給遅滞・停止

財務影響度2 財務影響度3

・BCMによる災害対策の整備強化

・同業他社も含めた国内外生産補完ネットワークの構築

・原材料ソースや輸送手段の複数化

発現可能性2 発現可能性3

機会

低排出製品の売上増大

・原材料(CO2由来原材料を含む)および生産時の排出量が低い製品の需要増大

・お客様の省エネ・低排出・資源循環につながる製品の需要増大

・消費者層のカーボンネガティブ素材への期待

財務影響度3 財務影響度2

・低排出原材料の優先的選択と確保

・生産活動におけるCO2排出削減

・LCA視点で低排出を考慮(使用時の加熱・前処理不要、易リサイクル性付与)した製品ラインナップの拡充

・カーボンネガティブ素材の研究開発・製品化推進

発現可能性3 発現可能性3
猛暑対策、感染症対策素材などの事業機会の獲得

・慢性的な気温上昇に伴う生活環境における温度対策の需要増大

・気候変動の影響による新興感染症の頻発

・保管・使用において気温に起因する事故の発生リスクが少ない製品の需要拡大

財務影響度2 財務影響度3

・気候変動による生活環境悪化(暑熱)を対策する素材の研究開発・製品化推進

・メディカル関連素材(創薬、投薬、医療機器、感染予防など)の研究開発・製品化推進

発現可能性3 発現可能性3

炭素税による影響額

2030年度におけるCO2排出量(Scope1+2推定)にかかる炭素税による影響額を17.4~35.1億円と算出しました。一方、TSV2030の目標を達成した場合、影響額は約38%軽減されます。

※ 排出量1トンあたりの炭素税は、IEA World Energy Outlook 2021を参照し、1.5℃ではNet Zero Emission by 2050 Scenarioの先進国の炭素税価格を、4℃ではStated Policy ScenarioのEUの炭素税価格を参考値として引用した。

シナリオ 排出量1トンあたりの炭素税(2030年) 2030年度・BAU TSV2030目標達成時 差分
CO2排出量 炭素税による影響額 CO2排出量 炭素税による影響額
1.5℃

14,950円/t-CO2

国内:88,400t-CO2

海外:146,000t-CO2

35.1億円

国内:50,000t-CO2(2020年度比 35%削減)

海外:95,000t-CO2(2030年度BAU比 35%削減)

21.7億円

▲13.4億円

4℃

7,475円/t-CO2

17.4億円

10.8億円

▲6.6億円

指標と目標

1. CO2排出量

東洋インキグループは、2010年度に「CO2削減プロジェクト」を発足して以来、国内・海外の生産拠点におけるCO2排出量削減に取り組んできました。現在の中期経営計画「SIC-Ⅱ」では、「2050年度カーボンニュートラル達成」を宣言し、TSV2050/2030の中心的な目標に設定しています。

TSV2030では、CO2の国内排出量を2020年度比35%削減の50,000t-CO2、海外排出量を2030年度BAU比35%削減の95,000t-CO2とすることを目標に掲げています。これらを実現するために、エネルギー使用量の削減、エネルギーの低炭素化、電力の低炭素化の3つの側面で諸施策を講じていきます。

図:2030年度までに35%削減

CO2排出量(国内)の推移と目標
図:2013年度 98,860t-CO2/2017年度 90,325t-CO2/2020年度 76,843t-CO2/2023年度(目標) 67,500t-CO2/2020年度比12%削減/2026年度(目標) 59,500t-CO2/2030年度(目標) 50,000t-CO2/2020年度比35%削減(2013年度比50%削減)
CO2排出量(海外)の推移と目標
図:2013年度 111,774t-CO2/2017年度 114,697t-CO2/2020年度 118,786t-CO2/2023年度(目標) 111,084t-CO2/2026年度(目標) 103,882t-CO2/2030年度(BAU) 146,000t-CO2/2030年度(目標) 95,000t-CO2/2030年度BAU比35%削減
主な削減施策と想定削減量(国内)
図:2020年度 76,843t-CO2/活動量変化 +15%/エネルギー使用量の削減 -20%/エネルギーの低炭素化 -5%/電力の低炭素化 -25%/2030年度(目標) 50,000t-CO2
施策の方向性 主な施策
エネルギー使用量の削減

・省エネ(工程中のエネルギーロスの排除)

・省エネ視点の生産プロセス改革

エネルギーの低炭素化

・生産設備の電化(直接排出の削減)

・LNG代替燃料の活用に向けた準備・調査

電力の低炭素化

・低炭素電力の導入

・再生可能エネルギー設備の導入

2. サステナビリティ貢献製品売上高比率

東洋インキグループは、早くから製品の環境調和性の向上に取り組み、1990年代からさまざまな環境調和型製品を世に送り出してきました。近年の製品開発においては、そのような“環境価値”だけに留まらず、人びとの暮らしの快適さ、健康・福祉、安全・安心といった方面にも目を向けており、その成果として、社会の持続可能性の向上に貢献できる(生活価値)多様な製品群を上市しています。

TSV2050/2030では、従来の環境調和型製品の基準に“生活価値を有する製品”の基準を加え、「東洋インキグループサステナビリティ貢献製品」として再定義しました。当社グループは、2030年までにこれらサステナビリティ貢献製品のグループ全体の売上高に対する売上高構成比率を国内外合わせて80%以上にすることを目標に掲げています。

図:2030年度までに80%以上

環境調和型製品売上高比率の推移と目標
図:2018年度 60.4%/2019年度 62.6%/2020年度 66.0%/2021年度 64.4%/2030年度(目標) 80%/サステナビリティ貢献製品売上高比率として
サステナビリティ貢献製品で定義する環境価値・生活価値とその方向性・事例
提供価値 方向性 キーワード/取り組みの事例
環境価値

容器・パッケージ領域

リデュース/石化原材料比率の低減・置き換え

リプレイス/製品構成の簡素化、紙への置き換え

リサイクル/プラスチック循環を支える材料・システム展開

モビリティ・エネルギー領域

輸送のEV化/ EV化加速に貢献する素材や技術の提案・先行開発

クリーンエネルギー・新エネルギー/地球環境に優しい新たな発電システムの開発・素材提案

カーボンリサイクル

CCUS(CO2回収・有効利用・貯留)技術への挑戦、CO2由来原材料の活用

生活価値

メディカル・ヘルスケア領域(予防・診断、治療、安全・安心)

通信・エレクトロニクス・デジタル領域(高速・大容量通信、高度なセンシング、ビッグデータ)

関連ページ